研究課題:


ラドンを用いた湿性沈着過程の定量的解明
 「風」すなわち大気輸送現象によって運ばれた空気中の物質は、「雨」によって人々の居住環境である地表面に効率的にもたらされます。同時に雨は地表の物質を流し去ります。大気中のラドン、トロンの壊変生成物は他の汚染物質と同じように降水や沈着によって大気から地表にもたらされます。従って大気による物質の輸送と降下のトレーサ(目印)と成ります。

1.降水中ラドン壊変生成核種濃度変動の観測と解析


 雨滴は大気中のラドン壊変生成物を取り込んで地表に落ちてきます(図1)。取り込まれた短寿命のラドン壊変生成物は放射線を出して変化・消滅していくため、それらの濃度の変動を観測・解析することにより、雨粒の形成から地表への落下までの物理過程が定量的に理解できます。
wetdepograph
図1 15分あたりの降雨量(Precipitation)と鉛214・ビスマス214降下量(Deposition)の観測例
  (2005年3月11日 名古屋大学にて)

2.降水による地表でのガンマ線増加機構の定量的把握

 
 雨が降ると地表での空間ガンマ線線量率(正確には空気吸収線量率)が増加します。これは、雨が地表にもたらした大気中の放射壊変生成物がガンマ線を放出するからです。しかしガンマ線の増加量は雨毎に大きく変化し、大きく増加するときもあればあまり増えないときもあります。環境放射線の監視のためにも降下の機構の定量的な解明が必要です。ガンマ線線量率の増加量が何によって決まるのか、実際の雨水中のラドン壊変生成物濃度の観測、γ線の伝達の計算と大気輸送・沈着数値計算モデルを用いて研究しています。
 逆に、この降雨によるガンマ線線量率の自然の変動を解析することで、地表面にある放射性物質の量・分布の推定方法を開発しています。この推定方法は、大気への放射性物質の放出を伴う原子力緊急時により迅速・詳細な環境状況把握を可能とするモニタリング手法の開発に応用できます。

ガンマ線伝達
図2 モニタリンスステーションの検出器へのガンマ線の伝達。ガンマ線源である鉛214, ビスマス214は雨水と共に降下し、一部は流出・浸透する。


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